野口泰弥

本紹介 『カナダ歴史街道をゆく』上原善広/文藝春秋

 

 問題:カナダの首都はどこでしょうか?バンクーバーやトロントは出てきても、首都オタワの名前が出てこなかった方も多いのではないだろうか?知っているようであまり知らない国。きっと多くの日本人にとってカナダはそのような国だろう。ましてカナダの歴史となると、高校の世界史の授業ですらほとんど習わなかったように思う。

 本書はヌナヴト準州を除く、カナダのほぼ全域を著者が足掛け2年、自分の足で回ったルポルタージュである。「歴史街道をゆく」というタイトルにある通り、旅の全行程でその土地に纏(まつ)わるカナダの歴史が豊富に紹介されているのが特徴である。もちろん本書は体系的なカナダ史の知識を得るのには不向きであるが、長年日本で被差別部落問題を論じてきた著者だけに、カナダ史における先住民の役割や、カナダに関わった日本人のエピソード等にも視線が向けられている点が興味深い。

 著者の旅は二度にわたり、合計6ヶ月をかけて行われた。第一章は「カナダ史の始まり」と題され、カナダ東部のプリンス・エドワード島、ノバスコシア州、ニューブランズウィック州の自転車での旅が扱われる。カナダ全土にはトランス・カナダ・トレイルという長距離自然歩道が整備されており、著者はこれをカナダの歴史街道と呼ぶ。旅はこの道に沿って進められていく。ヨーロッパ系移民の移住はカナダ東部から始まったため、この地域は旅の始まりに相応しい地域であった。

 第二章はケベック州に代表されるカナダの「フランス語圏」が紹介される。フランス語が主流の地域において、カナダの多様性というものを改めて感じ入る章である。第三章ではトロントから大陸横断鉄道に乗ってウィニペグヘ向かう。出来るだけ自転車で全行程を進めたかった著者であるが、時間の関係でやむを得ず鉄道を利用することになった。しかし、著者が言うように、鉄道はカナダが東海岸から西海岸までの大陸横断国家として成立する上で決定的な役割を果たした。その意味で鉄道を利用した旅というのは本書の趣旨に合致しているのである。続く四章、五章ではウィニペグからバンクーバーまでが描かれ、最終章ではユーコン準州とノースウェスト準州が扱われる。

 著者は約20年前、23歳の頃にアラスカからメキシコまでを徒歩で縦断した経験をもっている。その時はカナダ西部のユーコン準州やブリティッシュ・コロンビア州を3ヶ月ほどかけて縦断したという。よって、本書後半で扱われるブリティッシュ・コロンビア州やューコン準州は思い入れの強い土地なのであろう。中でもトリンギット族のバード・グッドウィン氏との再会は感動的である。

 本書はバード氏との心温まるムース狩りのエピソードで幕を閉じる。本書はカナダに興味を持つ人だけではなく、日本社会の問題に関心がある方にも気軽に手にとってもらいたい本である。著者が述べるように外国人労働者の受け入れや貧困などの社会間題について「多様性と共生する国」から学ぶことは多いだろう。著者と一緒に旅を進めながら、カナダの歴史にちょっと詳しくなれる、そうすると日本社会の問題も少し違った視点から眺めることができるようになる、そのような経験を与えてくれる本である。

(初出:北海道立北方民族博物館友の会季刊誌 Arctic Circle 106/2018.3.15)

2020.4.16

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