種石悠

本紹介 『縄文時代の歴史』山田康弘/講談社現代新書

 

 縄文時代の最新の概説書が出た。著者は、『老人と子どもの考古学』(吉川弘文館)や『つくられた縄文時代~日本文化の原像を探る—』(新潮選書)の著書で知られ、国立歴史民俗博物館教授を務める。

 本書の構成を簡単に紹介しよう。

 冒頭、Q&A形式で、縄文時代を知るうえで大事な概念の説明がされる。考古学の概説書は難しくて苦手、という方もこれで安心して読み進めることができると思う。

 「プロローグ縄文時代前夜」では、日本列島にヒトがやってきた旧石器時代から縄文文化のはじまりまでが解説される。そして「第一章縄文時代・文化の枠組み」では、縄文時代と縄文文化をどのようにとらえるか、山田氏独自の考えが示される。おそらく本書のなかでもっとも重要な、読みごたえのある部分だろう。

 これまでにも、縄文時代の概説書は幾冊も刊行されてきた。それらと比べ、2019年の現在において、どのように縄文時代・縄文文化の理解は変わったのだろう。

 まずいえることは、縄文時代の文化は地域によって多様であるということだ。北方民族博物館のある網走市内の縄文遺跡と、東京の縄文遺跡、あるいは沖縄の縄文遺跡でみられる文化を、同じ―つの文化としてとらえることはできない。しかしこれまで私たちは、日本列島の縄文時代における多様な文化の集まりを、「縄文文化」ととらえてきてしまったのである。

 この従来の「縄文時代・文化」について山田氏は、「戦後の新しい歴史観によって新しい日本国民を育成するために設定された、きわめて政治性の高い歴史概念」だと主張する。マルクス主義的唯物史観に無理に当てはめたということだろう。

 これは革新的な主張である。この問題について、山田氏以外の考古学者の意見もぜひ聞いてみたい。しかし、山田氏も述べるように、「縄文時代・文化」に替わる説明概念は、いまのところ見当たらないという。本書も、結局この概念を用いて解説が進められる。

 第二章から第五章までにかけては、縄文時代の時期区分、つまり草創期、早期、前期、中期、後期、晩期にそって、解説される。従来の概説書に比べ、大きく進展した縄文時代研究の新成果が詳しく説明される。

 注目されるのは、理化学的な分析法による研究の進歩である。DNA分析による縄文人の故地の検討、人骨の炭素・窒素同位体分析による食性の検討など、これまでにない分析法で新たな事実が次々と明らかになったことがわかる。

 第四章で紹介された「圧痕法(レプリカ法)」もその一つである。土器の胎土に含まれていた種子は、焼成時に燃えて無くなるが、その痕が穴となって残る。その穴にシリコンを入れ、固まった後に取り出すと種子の型が取れる。これを顕微鏡で観察し土器に含まれていた種子を同定する方法である。

 熊本大学の小畑弘己氏らは、この方法によって縄文時代にもマメ類の栽培が行われていたことを明らかにした。この「縄文農耕」が縄文中期の中部高地や後晩期の九州にみられる遺跡大規模化に大きな役割を果たしたと考えた。

 しかし、山田氏はこの説に懐疑的である。マメ類の栽培はあくまで当時の多角的生業の一つとして導入されたに過ぎないとする。

 小畑氏の肩を持つわけではないが、縄文時代のマメ類栽培を実証した研究上の意義は大きい。本書は縄文時代の優れた概説書だが、鵜呑みにせず、遺跡が示すさまざまな可能性について考えながら読むのもいいかもしれない。

(初出:北海道立北方民族博物館友の会季刊誌 Arctic Circle 111/2019.6.21)

2020.4.29

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