H5.26

白樺樹皮製船

Birch Bark Canoe

アルゴンキンインディアン

Algonkin

1888年

l.518.9xw.102.0xh.39.4

白樺樹皮

シラカバ類の樹皮を船殻(hull)材とする樹皮船は北アメリカの北方針葉樹林帯で広く用いられてきた。基本的な構造と製作過程は、1)剥いだ長方形の白樺樹皮の両側に切れ目を何箇所も入れ、杭を利用して船の形に折り曲げ、切れ目をスプルースなどの根で縫い合わせ、さらに2)舷側材(gunwale)と樹皮を繋ぎ合わせ、横梁材(thwart)および船首・船尾構造材(head piece)を取り付けて上部構造を整えたところで、3)肋材(rib)及び肋材と樹皮の間に挟み込まれる薄板の被覆材(sheathing)によって最終的な船型を完成させ、4)縫い目を樹脂でシールし、完成する。


北アメリカの樹皮船の多くは河川や湖沼で用いられるのが普通であったが、北アメリカ東部のMicmacやMaleciteではかつて海域用の白樺樹皮船が作れら、帆走仕様のものもあった。また、Maleciteの河川急流で用いられたものには船底保護のために、板を巻きつけたものもあった。

白樺樹皮の採取は樹皮を剥がしやすい6月か7月上旬(この時期の樹皮はsummer barkと呼ばれ、樹皮内面は淡黄褐色に変わる)と樹液が流れる前の時期(この時期の樹皮はwinter barkと呼ばれ、剥がしにくく、樹皮内面は赤褐色に変わる)である。真っ直ぐな傷のない木を選んで樹皮を採取する。

カヌーの製作場所は水平に整地した地面で、常に同じ場所が利用される。物差、設計図ともいうべき型枠(building frame)をあてて杭を打ち込み、その杭を抜いてその上に白樺樹皮を広げて型枠を置いて大量の石を型枠の上に置く。樹皮の両端から型枠近くまで切れ目(gore)をそれぞれ5〜6箇所入れ(船型によって切れ目の位置や数は異なる)、船腹付近が広いため、余分の樹皮を付け足すこともある。各2本の材からなる舷側材(gunwale)の間に挟みこんだ樹皮や数本の横梁材(thwart)と樹皮をスプルースの根で繋ぎとめながら、湯で樹皮を柔らかくしながら船型を整え、仮の肋材(rib)を差し入れて基本的な構造を完成させる。船首と船尾には薄板を重ねて何箇所も縛った材料を曲げてhead boardに取り付けた船首・船尾構造材を取り付けて船尾・船首の樹皮を縫い合わせる。肋材と樹皮の間に薄い被覆材(sheathing)を入れ、さらに舷側材の上部に保護のための材(gunwale cap)を被せ木釘で留める。本資料の被覆材は船体全長の約3分の1の長さの薄板材で構成されている。樹皮を縫い合わせた部分に防水のためのgumを塗りつける。このシール材を先住民はgumすなわちゴムと表現しているが、実際はトウヒ類の樹脂を煮て液体にしたものである。トウヒの傷に染み出した樹液の塊を採取し、容器で熱を加えて液状にして、含まれる木屑やその他の不純物を布で濾し取る。さらに、gumが乾燥してひび割れができないよう、適度な柔らかさをもつように、ラードなどの油分を混ぜる。

  白樺樹皮は表皮を船の内側にして用いる。本資料の場合は外見上、表皮が外側の大部分を被うように見えるが、本体船殻に張りつけたものである。アルゴンキンの場合、暗色の樹皮内面を削り下層の淡色層を露出させることで、船首部分に魚類、クマ、ムーズなどのシルエットを描くことが多い。そのほか、同様の方法で舷側部にさまざまな文様を施す集団もみられた。

  本資料の唯一ともいえる添付情報の"Algonquin canoe"にある"Algonquin"は、アルゴンキン語族を指すものではなく、狭義の民族集団を指し、オタワ周辺から北方の、すなわちカナダ・オンタリオ州北東部からケベック南部にかけてのAlgonquinを指すものと思われる。船型からみても、この集団が各居留地で製作を伝えているものとよく一致する。 

 

 

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